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「この結婚会見、ファンは泣いてるだろうね」
姉はブラウン管の光に顔を照らされながらぽつりとそう呟き、
「あ、ごめん」
すぐに横を向いて、配慮に欠ける発言を謝罪した。
「ううん……」
私は誰かを不幸にしたいと思ったことはないし、できれば誰も傷つけず、嫌われずに生きたい。だけど、人気俳優坂口運春と結婚するということは、たくさんの女性の憎しみの対象になるということだ。
姉の言ったとおり、今、日本中の運春ファンは泣いているだろう。涙を流さないまでも、深く傷ついて、叫んだり、頭を抱えたり、呆然としているだろう。
もしかしたらいつか、自分が彼の恋人になれるかもしれない。そんな可能性はほとんど無いと知りながら、夢を糧に生きているのがファンというものだ。
それなのに。
運春の結婚会見は、どれだけの女性を地獄に堕としたのだろう。
きっと、彼の心を射止めたのが女優やアイドルなら、まだ諦めもつく。
でも。
一般人。しかも、運春のファンでもなかった、ただの女。
それは、ファンにとって最も許し難い存在なのかもしれない。
「明日からは私、夜道に気をつけないとだね」
そう言ったのは半分、冗談だったのだけど。
運春と結婚した私を待っていたのは、ぶつけられる悪意と闘う日々だった。
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