28人が本棚に入れています
本棚に追加
3. メイ
「もう死にたい」
推しの重大発表からニ日。あたしはそれが口癖みたいになって、気がついたら口からこぼれてしまっている。学食で向かいの席に座った咲良は事情を知っているから、白々しい慰めを口にせずにマフィンのラップをむいた。
「だからさぁ、推すなら二次元にしなってば。三次元の男と違って現実に傷つけられることもないよ?」
「推しが最終回で結婚して、子ども抱いてたって泣いてたの、誰だっけ?」
「原作ではあんなシーンなかったもん。アニメで勝手に加えられた演出だから、あんなのもう気にしてない。それに、彼は過去の美しい思い出よ。今イチ推しのロイド様は女嫌いだから、結婚の心配もないわ」
咲良はそう言って、スマホに保存した猫耳の美青年の画像を見せてきた。彼女の推し「ロイド様」はオンラインゲームのキャラクターで、白虎の化身らしい。
「かっこいいね」
あたしが褒めると咲良は嬉しそうに目を細めて、スマホを胸に抱いた。
「でしょう? 最高に麗しいでしょう?」
「あたしも二次元に推し作ろうかな」
咲良に合わせて、あたしは心にも無い台詞を吐いた。
現実に存在しない、獣人の、ゲームキャラクター。いくらカッコよくても、どうして架空の存在にそれほど夢中になれるのか、正直あたしにはよく分からない。
最初のコメントを投稿しよう!