物珍しいので。

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物珍しいので。

沙知を迎えに行って新しい部屋に連れて帰ると、案外元気で明るかった。 沙知は風邪をひいてあのお姉さんが来た日、帰るお姉さんにさよならを言った。その時に耳元で囁かれた事を話してくれた。 ーー「今のお母さん、沙知ちゃんに厳しいんだよね?私が新しいお母さんになったら優しくするからね?」ーー 沙知の頭の中はハテナマークだらけになった事だろう。 新しいお母さんて何、と後でパパに聞いたが今のお母さんがいなくなったらそうなるって事だよと言われて、タイミング悪く、沙知のお友達のお母さんが数ヶ月前に亡くなったばかりで沙知はそのお友達の泣く姿を見ていて、自分と重ねてママは死んじゃうと思ったらしかった。 (道理で最近、素直っていうか…。) 多分、夫は沙知のお友達のお母さんが亡くなられた事も話はしたが覚えてないんだと思う。 これも父親失格。 お母さんがいなくなったら、そんな事を言うなんてと、また怒りメーターが振り切れそうになる。 そして次の日、沙知を迎えに行き幼稚園の門を出るとそこに夫の姿があった。 取り敢えず話を、と言われて荷物もまだ持って行けそうと考えて、家に戻った。 沙知にお菓子とジュースを出すと、テレビをつけて見るように夫は言い、私の方へ歩いて来ると、突然、目の前で土下座した。 「ごめんなさい!出来心だった!魔がさしたんだ!これ、見つけた。実家のアルバムなら持っていくだろう?置いてあるから開いたら…。」 テーブルの上に乗せられ、開かれたアルバムにはボブの若い女とデレデレに写る夫の写真。 「どこでこんな写真を?いつから知ってたんだ?」 「沙知の3歳の誕生日前からでしょ?沙知の誕生日プレゼント、二人で決めて買って来るのはあなた。そういう約束だったのに買って来たのは違う人形。これが可愛いと思ったからって言ったわよね?あなた…そういうセンスないの自覚してたでしょ?だから二人で相談して決めてたんだし、店で可愛いって自分で判断すると思えなかった。実際、可愛かったしね。誰かにアドバイスされたんだと思った。そしたらズボンからビジネスホテルのレシートが出て来た。近所で泊まらないでビジネスホテル使う用途って何?」 「仕事?」 「なんで部屋が必要?仕事で部屋が必要なら経費で落ちるでしょ?なんで自腹?」 呆れて冷たい声しか出ない。 そこでスマホを手に土下座の写真を撮った。 もうこんな機会、そうないと思ったら、残しておこうと思えた。 最後の夫の姿を。
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