意外な援軍

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「なぁ、スマホ触った?」 お風呂場から出て来た夫に聞かれて、洗濯物を取り込みながら答えた。 興味なさそうに素っ気なく。 「スマホ?あぁ、洗濯機の上に置いてあったから移動させたけど?バスタオルの上に置いただけ!こう持ってこう!」 汚い物を触る様に端っこを持ったから大丈夫よと付け足して、3本指で摘む動作をして見せた。 少しむっとした表情をしたが、安堵している事は分かった。 (離婚って言えばいいのに…相手が好きだから別れてくれ!まぁ、あんたがいう言葉じゃないけどね。) 離婚なんて浮気が分かった時点で考えた。 散々悩んで、香水の匂いで吐いてファンデーションが付いているのを落としながら吐いて、レシートを見つけては吐いて、写真を見ては吐いて、現実では吐いて心には溜め込んで、そうやって積み重なった怒りはメーターを振り切り、爆発したんだ。 娘を迎えに行く夫を送り出すと、午前中にしておいた支度の続きを手早く始める。 娘の荷物はまとめた。 二日分程度だが娘の物は多めで、自分のは僅か、二日程度の旅行鞄に入れて、娘には小さなリュックを背負わせる事にした。 「あとは…貯金通帳、印鑑、保険証…と。」 お金関係を纏めて小さめのショルダーバッグに詰め込み、首から斜め掛けにした。 いざとなれば荷物も持たず、沙知だけ抱き上げて出るつもりの準備だった。 一時間程で夫が帰宅。 幼稚園までは歩きで10分、お片付けなんかで娘が遅い時は待たされるから30分は掛かると見ていたが、53分かと時計を見た。 「ただいまー。珍しいですねってお母さん方に捕まっちゃってさ。先生に父の日のプレゼントどうでしたかって、髪の毛を描き忘れたみたいでしたけど、上手に描けてましたね、奥様って言われたよ。」 と、最後のフレーズは耳元で沙知に聞こえない様に囁かれた。 (気持ち悪っ!仕方ないけど…沙知は私を描いたって事?お父さんの好きな物…そんなはずないわ。) なんかの間違いだなと思っていると沙知が洗面所から走って戻り、リビングのソファの後ろに座り込み、幼稚園の鞄を開けてチェック柄のブルーの小さな紙袋を出した。 父親の前に立ち、堂々とそれを前に差し出す。 「パパ!いつもおしごとありがとう!」 「……沙知!ありがとう!パパ嬉しいよ。」 沙知を抱きしめてそれを受け取り、楽しみだなと開けてから、畳まれたハンカチを広げた。 夫は床に膝を立てて、私には背中しか見えないが、夫の前にいる沙知は見えた。 嬉しそうにニコニコしていた。
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