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むしろ、積極的に楽しんでしまった、とみちるは思う。魚の水槽に癒やされ、美味しい食事に満たされ、とどめはサプライズプレゼント。
――楽しくないわけがない。
お姫様のように扱われ、恋愛小説の中のヒロインになった気分だ。
――って、ガラじゃないか。
それでも収穫だ。この経験は、恋愛小説の編集者として役立てなければならないと、早速仕事に燃えるみちるである。
楽しかったデートはもう終わる。
そして、これは偽物のデート。どんなに楽しくても、理想通りの流れでも。思い出にもならないデートだ。
もう一度、みちるは葵の背中を眺める。
――本当の恋人同士だったら、並んで歩くよね?
二人の間にあるのは偽物の恋人の距離だ、とみちるは気づく。
たった数歩の距離だけど、なぜか、とても遠いような気がした。誰かと一緒にいても、心は一人なのだと、余計に思い知った。
なぜかどんどん気持ちがしおれていく。
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