第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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「名前だけじゃ、情報としては少なすぎますね。不動産を扱う仕事をしています」  みちるの警戒心を察してか、葵はポケットから名刺入れを取り出した。またしてもそこで目を奪われる。  見たことのない、南国の海の色をした名刺入れだった。 「珍しいですね。すごく素敵です」  みちるは目を輝かせる。  コバルトブルーの名刺入れは個性的であるが、葵の手にあるとまったく嫌味がなかった。  ――川瀬さんのセンス、好きだな。 「オーダーメイドなので、店頭では見かけない色かもしれません」  そう言うと、葵は名刺を一枚、みちるへと差し出す。  名刺には〝株式会社スペースソムリエ・代表取締役社長〟と記されている。会社の所在地もすぐ近く、丸の内だ。年齢は、みちるより二つ年上の三十歳だと、さっき聞いたところである。 「不動産……」 「不動産ベンチャー企業です。主に不動産情報サービスを提供しています」 「不動産売買や賃貸の?」 「はい。AIを使って〝売り手と買い手〟〝貸し手と借り手〟のマッチングを行っています」 「へえ……」  不動産業界も今やAIなのかと、みちるは素直に感心する。
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