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――でも……イケメンで、社長で、センスもいいのに、振られるんだ。
恋愛というものは奥が深い。いや、人生が深いのだろうか。よく分からない状況に、みちるは哲学的な思考になるしかなかった。
「羽山さんのご職業は?」
今度は、みちるが情報を開示する番となる。一瞬躊躇ったが、おずおずと自分の名刺も取り出した。
「へえ。出版社勤務ですか」
葵はみちるの名刺を眺めながら、意外そうな顔つきになった。
「はい。編集者をしています」
名刺には『第二編集部』とだけある。今日限りのつきあいだ。詳しい説明はいらないだろう。みちるはあえて、自分から語ることをしなかった。
早く話題が移り変わればいいと思うが、葵はなかなか名刺から目を離さない。
「職場は大手町」
「あっ……そうなんです。実は私もすぐ近くで働いています」
みちるの職場は、東京駅から徒歩五分ほどのビルの中にある。だからこそ職場近くで待ち合わせたのに、こんなことになってしまった。
「偶然は必然」
葵が言い、ドキリとしながらも、みちるは「もしかして、ユングの?」と訊ねた。
「そう。シンクロニシティです」
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