第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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 誰かのうわさ話をしていたら、その本人があらわれる――そのような偶然の一致には何かしらの意味がある、関係がなさそうなものに実は共通性があると、心理学者のユングは提唱した。 「ただの偶然ですよ。クリスマス・イブに失恋なんて、そこらじゅうにありますよ。東京に一体どれだけの人間がいると思っているんですか」  もしかして、〝この出会いはただの偶然なんかじゃない〟なんてロマンチックなことを言われるんじゃないかと、みちるは慌ててしまった。  ――個室って、緊張する。  まさかこんなイケメンが自分を口説くわけがないだろうと思いつつも、用心深くなる。 「俺は、物事には何にでも意味があると考えています。だからこそ、一喜一憂する必要もない。起こるべくして起きたことに、必要以上に浮かれることも悲嘆することもない。そもそも、運命なんて信じていませんし」 「は……はぁ……」  ――何言ってるんだろう、この人。意味分かんない。  もやもやをごまかすように、みちるは前菜の野菜を口にした。 「何だか、納得していないっていう顔だな」  みちるの気の抜けた返事が、気に障ったのかもしれない。
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