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「一喜一憂はしないっておっしゃいましたが、さっき、けっこうショック受けてましたよね?」
だからはっきり、みちるは言ってやったのだ。
「き、気のせいだろ」
クールな表情がガラガラと崩れていく。照れくさそうに葵は口元を隠し、ふぅ、と軽く息を吐いた。みちるは驚いて、目を見張る。
――そんな可愛い顔もするんですね。
可愛い人は、悪くない。可愛い人は、嫌いじゃない。これはギャップ萌えというやつだ。みちるは自分の思考を分析するが。
――いかん、いかん。恋愛小説の読みすぎだ。
現実世界に、イケメンで包容力がある海運王や石油王はたぶんいない。いたとしても遭遇するわけがない。それはさておき。
みちるはますます不思議に思うのだ。葵のような男性が、なぜ、クリスマス・イブに振られたのだろう。
「川瀬さんみたいな人でも、女性に振られるんですね……あ、ごめんなさい。私、失礼なことを……」
「いいえ。ただ、俺みたいなって、どういう?」
「だから、普通に素敵な男性だってことです」
みちるは、気の利いたことのひとつやふたつは言える大人になったことに、ホッとしていた。しかし、相手には響かなかったようだ。
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