第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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 高収入に高層マンションがステータスだったのは、(いにしえ)のスパダリの話である。今どきのスパダリは、スペックだけでは足りない。むしろ、人によってはスペックよりも包容力や優しさに重きを置く。  ――スパダリと言えど、盛者必衰が世の常。  ただ、葵の言いたいことは、みちるでもだいたい分かった。 「恋愛より、結婚したいということですね?」  確認を兼ねて、みちるは葵に訊ねた。 「結婚は人生において意味がありますが、恋愛は単なる心のバグですから。つまり、無駄です」  みちるは一瞬、言葉に詰まる。 「なるほど……川瀬さんには、婚活アプリや結婚相談所のほうが向いているかもしれませんね」  こういう相手とまともに議論するのは、疲れるだけだと心得ている。そこでみちるは、適当に話を合わせることにした。  すると、葵が神妙な面持ちになる。 「それらも利用済みです。困ったことに、どれも断られてしまうのです。こちらがすぐにでも結婚したいと告げると、あっさりとね」  ――怪しまれているんですよっ……!  たとえそれがお見合いだったとしても、お互いの条件をすり合わせて結婚するのが一般的だ。多少呆れながらも、みちるは愛想笑いを浮かべる。  二度と会うこともない他人に、ムキになったところでしょうがない。
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