第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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 結婚より、今は仕事がしたかった。学生時代から憧れていた出版社に就職し、仕事ものってきたところだ。それに、一番の目標であるファッション誌の編集には、まだ携われていない。  葵はワイングラスを手にとった。 「羽山さんが結婚を望んでないってことか……」  そう言って、一口ワインを飲む。 「だったら、別れて正解じゃないですか? 同じ方向を向いていない二人が一緒にいるなんて無駄ですよ」  容赦ない葵の正論に、みちるは少しばかり反感を覚える。いつものみちるなら、この程度のことで言い返したりしなかったはずだ。 「そんな風に割り切れないのが感情だし、恋愛だと思いますが」 「恋は盲目。恋愛は単なる心のバグです。さっき話しませんでしたっけ?」 「川瀬さんのお考えはそうかもしれませんね。だけど、少なくとも私にとっては違います」 「証明しましょうか? 恋愛がバグだって」  葵が挑戦的な笑みを浮かべる。 「どうやって?」 「羽山さんをバグらせて、俺に恋愛感情を抱かせるんです」  みちるは目を丸くする。  そしてすぐに笑い出した。
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