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「それ、おかしいっ……! そんなことできるんだったら、川瀬さん、今頃とっくに結婚できてますよ」
みちるにお腹を抱えて笑われても、意外にも葵は冷静だった。
「だから、恋愛はバグなんです。恋愛と結婚は別です」
「私はそうは思いませんけど」
みちるは、軽く流してこの話を終わりにするつもりだった。葵と討論することが何よりの無駄である。どうせ明日には忘れてしまうのだから。
しかし、葵のほうはそうではなかったようだ。
「だったら試してみましょう。俺たち、疑似恋愛してみませんか?」
「疑似恋愛……?」
葵の表情があまりにも真剣で、さすがにみちるもそれ以上笑えなくなってしまうのだった。
食事を終えた二人は、ビルの屋上テラスから丸の内の夜景を眺めていた。美しいクリスマスイルミネーションは、失恋した者たちには眩しすぎたようだ。
みちるはただ無言でライトアップされた東京駅を見つめる。葵も何も言わない。ひたすら虚しいだけの時間が過ぎる。
それでも、どちらも「帰ろう」とは言わなかった。
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