第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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 疑似恋愛の話は冗談だったのだろうかと、ぼんやりした頭で考える。きっと冗談に決まっている。みちるだって本気にしたわけではない。  ただ、葵がどうしてあんなことを言ったのかが気になった。  どうせもう二度と会うこともないのだ。食事も終えたのだし、さっさと帰宅すればいい。なのに、みちるの足は動かなかった。  ――こんな気持ちのままで一人になるのは、何だかやりきれない。  そうは言っても、寒空の下で何時間も過ごすわけにはいかない。 「これから、どうします? 飲み直しますか?」  すると、葵のほうが先に口を開いた。彼なりに気を使っているのかもしれない。 「もう、お酒は……」  ワインだけでほろ酔い気味のみちるは、これ以上アルコールを口にする気にはなれなかった。今夜酔ってしまったら、後悔しそうな予感がした。 「また、今度にしませんか? 今夜はごちそうになってしまったので、次は私が……」  みちるの言葉を遮って、葵がざっくばらんに言う。 「実は、ホテルのスイートも予約してあるんです。どうですか、これから俺と一緒に」 「は、はあっ?」  思いがけない誘いに、みちるは驚いて飛び退いた。 「スイート?」  確認するように繰り返す。
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