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この流れでスイートと言えばスイートルームしかありえない。みちるの知る限り、一泊何十万、はたまた何百万する、高級ホテルの上のほうにある部屋である。
――さすがセレブのクリスマス?
クリスマス・イブにスイートルームを予約する風習がこの時代にも生きていることに感心しつつ、問題はそこじゃないと思い直す。
「はい。スイートルームです」
穏やかな口調で葵が言った。
勘違いではなく、本気でホテルの部屋に誘われていると、みちるは確信する。
――一見上品だけど、結局はクラブやパーティーで出会ってワンナイトするノリと一緒!
そして、ここは怒っていいところだ、と脳が判断した。
「な、何を……! そんなつもりまったくありませんからっ!」
みちるは顔を真っ赤にして声を張り上げた。周囲にいたカップルが、何事かと二人をちらちら見ている。
「それだけしっかりしていれば、一人で帰しても大丈夫かな」
興奮するみちるを前に、葵は至って落ち着いた様子だ。
「か、帰れますよ。ごちそうさまでした!」
「いいえ。こちらこそ楽しい夜をありがとう」
そう言うと、葵は少しだけ微笑むのだった。
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