第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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 §  人間力は朝の習慣で育つ。  目覚めたら日光を浴び、軽くストレッチ。ホットドリンクで体を温め、アロマを焚いて読書をする。そうしたモーニングルーティンは、心を豊かにしてくれる。  ――はずなんだけど……。  実際のみちるの朝は違った。少しも優雅さはなく、ただひたすら慌ただしい。スマホのアラームは何十個も設定されており、止めても止めても鳴り続ける。  おしゃれブランドのもこもこルームウェアは色あせているし、マグカップはいつの間にか欠けていた。もちろん、アロマを焚く余裕などない。  室内の移動は常に宅配のダンボール箱を飛び越えねばならず、トースターが壊れたせいで食パンは焼かずにそのままかじるしかなかった。 「やだ、もう、変な匂いする!」  今日着ていく予定のお気に入りのジャケットは、なぜか寝起きのお父さんのような匂いがする。みちるは泣きそうになりながら、消臭スプレーをバシャバシャと吹きかけるのだった。  しかし、オンとなれば、そんなみちるでも気合が入るのだから不思議なものだ。
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