第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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 東京駅から徒歩五分。大手町アーバンラウンドタワー二十階に、みちるが勤務する出版社、『デービスウィルソンパブリッシャーズ』日本支社がある。  始業まであと五分。  ――むしろ、五分前に到着した私を褒めて。  みちるは颯爽とオフィスに足を踏み入れた。  ――服は人を語る。  過去にみちるが仕事で出会ってきた、企業のトップや幹部クラスの女性たちは、とにかくおしゃれでセンスが良くエレガントだった。  ――あの場所に行きたいわけじゃないけれど。  彼女たちに憧れることは、自分の好きを肯定することだ。  ファッションは、みちるにとってただ自分を着飾るためにあるのではない。生きる力そのものだった。 「おはようございます」  自然な笑顔で、みちるはデスクに向かう。美少女フィギュアを手にした後輩がみちるの服装を見て、「おっ、今日もキマってますね」と声をかけてきた。もちろん、お世辞である。 「ありがとう。もっと褒めて褒めて」  だからみちるも、ふざけた調子で返すのだ。  ファッションはコミュニケーションの潤滑油にもなる。少なくともみちるはそう信じている。しかし。  ――服は人をたまに(かた)る。
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