第一条 互いを愛称で呼び合うべし

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 ――イケボだなぁ。  みちるは、隣に立つ背の高い男性の横顔を、こっそりと盗み見た。  高級腕時計を覗き込む、知的な切れ長の目。さらに、すっと通った鼻筋と美しい顎のライン。一際目を引く眉目秀麗な男性に、少々驚く。  ――こんなイケメンでも待ちぼうけくらうんだ。  走ってきたせいで乱れた髪を、みちるはこっそり撫で付けた。  ――その上、この人お金持ちそう。  上質なチェスターコートを眺めながら、「あ、今年の!」、思わず声にしてしまう。男性が身に纏っているのは、ハイブランドの新作コートだった。 「何か?」  男性は、警戒心をあらわに、みちるを見た。 「い、いいえ、何でもありません」  みちるは恥ずかしくなって俯く。  ――いいコートだ。  それは、ブランドのサイトをチェックしていた時に、実物を見てみたいと心惹かれたメンズコートだった。  スタンダードでありながら、洗練されたデザイン。価格は五十万ほどだっただろうか。みちるは、隣の男性のコートが気になってしょうがなかった。
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