922人が本棚に入れています
本棚に追加
――イケボだなぁ。
みちるは、隣に立つ背の高い男性の横顔を、こっそりと盗み見た。
高級腕時計を覗き込む、知的な切れ長の目。さらに、すっと通った鼻筋と美しい顎のライン。一際目を引く眉目秀麗な男性に、少々驚く。
――こんなイケメンでも待ちぼうけくらうんだ。
走ってきたせいで乱れた髪を、みちるはこっそり撫で付けた。
――その上、この人お金持ちそう。
上質なチェスターコートを眺めながら、「あ、今年の!」、思わず声にしてしまう。男性が身に纏っているのは、ハイブランドの新作コートだった。
「何か?」
男性は、警戒心をあらわに、みちるを見た。
「い、いいえ、何でもありません」
みちるは恥ずかしくなって俯く。
――いいコートだ。
それは、ブランドのサイトをチェックしていた時に、実物を見てみたいと心惹かれたメンズコートだった。
スタンダードでありながら、洗練されたデザイン。価格は五十万ほどだっただろうか。みちるは、隣の男性のコートが気になってしょうがなかった。
最初のコメントを投稿しよう!