922人が本棚に入れています
本棚に追加
§
白い皿には、円を描くようにカラフルな野菜が盛り付けられている。パプリカ、かぶ、人参、ナス、ズッキーニ、アボカド……数十種類もの野菜からなる、まるでクリスマスリースのような美しい前菜を、みちるは食い入るように見つめていた。
向かいの席のイケメンは、白い皿の中央から、じゃがいものポタージュが入ったガラスの器を手にした。スプーンでひと掬い、上品に口へと運ぶ。
「あの、本当に、いいんですか?」
「ええ。せっかく予約していたのに、無駄にするのもなんですから。ごちそうしますよ。クリスマスプレゼントです」
イケメン――川瀬葵は、気さくな笑みを浮かべた。
出会ったばかりで正体不明の男性と、フレンチレストランの個室でクリスマスディナーをいただくという状況に、みちるは今さら戸惑っている。
――勢いに押されて、付いてきてしまったけれど。
みちるのほうもやけっぱちだったのだ。
そうは言っても、偶然にも同時に失恋したという理由だけで、食事をごちそうになるなんてあつかましすぎる。せめて、自分のお代は払おうと思った。
――赤の他人だもの……。
最初のコメントを投稿しよう!