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9 めでたい報せ
心も体もひとつになる頃には、夫の過保護っぷりは王妃様の笑いの種にされるほどになった。私は式典など公の行事でも彼の横に立っているだけなので、陛下は未だ雲の上の人だ。
結婚1年目、新しい命を授かった。
私と私のお腹にキスをするために、大きな夫はいつも背中を丸めている。気の弱い熊みたいだと侍女が言い、それが広まり、家の中はいつもあたたかな空気が漂っていた。
「実はめでたい報せがある」
「なあに?」
長椅子で大きくなり始めたお腹を撫でている私の足を、彼の大きな手が擦ってくれる。正面に椅子を持ってきて座り、私の足を腿に乗せて、丹念に撫でられるのは本当に気持ちがよかった。
「王太子殿下がイヴリン・マカヴォイ嬢に求婚し、イヴリン嬢は求婚を受けた」
「まあ、素敵。プリンセス・イヴリンになるのね。ん?」
何かを感じ、宙を見つめる。
夫はそんな私を見つめていた。思い出すべき何かを知っているようだ。
「あ、ロー……」
「数多の求婚者を振り切り、最高の夫を手に入れた事になるな」
「やだ。すっかり忘れていたわ」
美しいイヴリンと結婚したいと言って、私との婚約を破棄した、愚かで浅慮な元婚約者。ローランド・バロンの名前を久しぶりに思い出した。存在すら忘れていた。
でも、彼が破談にしてくれたから今があると思うと、あまり悪く言えない。
「あの人も、いいお相手が見つかるといいわね」
「優しいな。優しい妻に、喜んでもらえるだろう報せがあるんだが」
「プリンセスより素敵な事? 何かしら」
夫は目を逸らして、微笑んだまま私の膝に言った。
「爵位を授かり、引退する。プリンセスには及ばないが、君は公爵夫人になる」
「え」
咄嗟に夫の肩を掴んだ。
「引退って……貴方、どこか具合が」
「いや、家族の時間が欲しい」
「ジョザイア……」
目頭が熱くなる。
それは心の底から望んでいた事だった。ただ、重責を担う夫にはあまり言わないようにしていた。でも、もし訃報が届いたらという恐れに囚われた日は、とても辛いのだ。
私は顔を覆って俯き、安堵の溜息を洩らした。
そしてお腹を撫で、私たちの愛する今はまだ小さき人へと伝える。
「よかったわね。お父様は傍にいてくださるって」
「俺はいい父親になる」
「当たり前よ。最高の夫だもの」
彼が照れたように頬を染めて、私の足を丹念に擦った。
「ねえ、こっちへ来て。一緒に喜びましょう」
そっと私の足を下ろして、彼が隣に座り直す。そして私を抱き寄せた。広い胸に頭を預け、ふたりの手を重ねてお腹を撫でる。
「今まで、この国を守って来た。君たちを守ってみせる」
「鉄壁よ」
「愛している、タミー」
「私も愛してるわ、ジョザイア」
彼が背中を丸め、愛のこもった優しいキスをまたしてくれた。
(終)
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