7 その想いは三者三様

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「美玲の怒り方は別れた母ちゃんにそっくりだ。くわばら、くわばら。勘弁してくれい」  手をすり合わせる義信に、清香は優しく諭す。火葬ではなくコノハナサマの話を聞きに来た。安心して欲しいと話せば、機嫌を直し鼻の下を伸ばした。異変を察した美玲がすぐさま庇い、事なきを得る。 「死んでも中身はちっとも変わらないのね。小学生を誘拐して反省の色がないロリコン野郎だもの。清香さんも私の息子も、汚らわしい目で見ているんでしょう」 「何を言う。若い女性は大好きだが、おまえや孫は本当に大切に思っている。汚らわしいなんて誤解だ。信じてくれ」  清香は家族を想う気持ちを伝えるが、美玲は不信感から納得しない。口寄せをするなら今だ。義信は身体を借りて直接胸の内を伝えられる。清香は憑依から怪異の真実が分かる。最善の方法だと思うが、美玲と一郎は意味深に顔を見合わせた。霊の態度が想像以上に悪いため、二人とも口寄せに反対らしい。特に一郎は、口寄せが卑猥な行為に利用されると不安そうだ。 「幽霊とは言え、俺の清香に手を出すのは許さん。彼女の許婚は俺だ」 「……あなたのものになった覚えはないのだけれど」  一郎ははっとして口元を覆う。清香は前回避けられた足踏みを成功させようとするが、あっさり躱された。戻ってきた丸之介は穏やかな表情で何も言わず、美玲は呆れ顔だ。義信といえば婚約者の存在に衝撃を受けている。  このままでは話が進まない。そこで清香は、口寄せに支障が出たら再度遺体に霊符を添える提案をした。義信の意向を無視するが、葬儀は滞りなく、棺は綺麗に燃えるはずだ。  恐怖の発案に義信は慌てる。再び遺体に閉じ込められ火葬されたらたまらない。憑依で悪さはしないと約束をし、口寄せの儀式を行う運びとなる。 「じゃあ、いくよ」  口寄せはすんなりと成功した。意識は遠のき別の思考が流れ込む。清香は脳内で再生される過去に意識を集中する。
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