7 その想いは三者三様

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 だが、義信が遺骨を発見し事態は一変する。語られるコノハナサマの特徴は睦月にそっくりだ。忠蔵は義信の豹変に驚きながらも、幽霊が出る心当たりはあった。正式な弔いをせず土に還しただけの骨壺だ。魂が現世(うつしよ)で彷徨ってもおかしくはない。  説得は虚しく、義信は睦月の霊とおぼしき存在を土地神だと信じて聞かない。その執着は凄まじく、広場に有刺鉄線や小屋が作られ、いよいよ異界じみてくる。人々は、コノハナサマの祟りにより狂ったのだと考えた。亡霊を神と思い込むのは祟り以外にあり得ない。コノハナサマは親子の命を奪った集落に怒っている。義信はその見せしめなのだ。   忠蔵は自身を蔑む。暴走する義信の姿は苦しくやるせない。義信は氏子仲間であり大切な友達だ。救ってやりたい。だが、想いとは裏腹に、祟りの身代わりになる勇気はない。今庇えば死ぬまでコノハナサマに恨まれる。受け入れるのは難しかった。  高原地区にとってコノハナサマは生活の一部だ。電気や水道があり、インターネットのある暮らしが手放せないように、土地神は切り離せない。失うなど想像するだけで恐ろしく、血の気が引いた。  打開策のないまま時間だけが過ぎ、やがて義信は亡くなった。本来ならば高原地区にて神葬祭の準備をするが、それどころではない。全員、次は誰の番なのかと震え上がった。祟りで亡くなった者を送り出せば災いが降りかかる恐れがある。二の舞は避けたかった。  忠蔵は集落で弔えない後悔を抱えながらも、市内の葬儀会社へ依頼を済ませた。丸之介に怪しまれたが、引き受けてもらえれば御の字だ。あとは家族葬ホールひだまりに任せよう。  問題は幽霊が出る家だ。地域の人々は怖がり誰も立ち入ろうとはしない。そこで忠蔵は美玲に目を付けた。後の対応は任せ、全てが済んだ後に家を取り壊そうと考えた。  全てはコノハナサマの災厄から逃れるため。忠蔵はその一心で丸之介に会い、真相を追究させまいと清香達を牽制したのだ。  忠蔵は引き出しの奥から封筒を出し見せた。陽子の遺書だ。文面は読みやすく、丁寧な筆跡で綴られていた。
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