7 その想いは三者三様

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 忠蔵は慎重に手紙を畳み封筒にしまう。 「私は、この手紙が今でも心底恐ろしいのです。私達を疑いもせず最後まで信じていた。その事実が高原を蝕んでいるのです。私達は自らが作り出した罪を抱えて生きねばならない。ですが、義信さんの姿を見て背負い込むのは無理だと気づきました。可笑しいでしょう、良い歳の集まりなのに、誰もが自分が可愛く責任が取れないのです。ですから、礼子さんに全てを(なす)り付けようと考えました。咲月さんを次の祟りの生け贄として捧げれば我々は助かる。礼子さんには申し訳ないが、お孫さんの命は諦めてもらおうと説得していたのです。どうです、酷いものでしょう」  美玲は興奮した様子で立ち上がると、掴みかかる勢いで吠えた。 「あなた達おかしいわ。子どもの遺骨を隠して母親を殺したのよ。咲月ちゃんだってたまたま遊びに来ていただけで、悪くないじゃない。人の命よりも、いるか分からない神様の祟りに怯えて保身に走るなんて、狂っているわ」  清一が目配せをして止める。忠蔵はふん、と高圧的に鼻を鳴らした。 「何を言っても理解していただけないでしょう。私達はコノハナサマと共にあります。この土地に生まれ、神を守る両親の背中を見て育ち、受け継いでいく。土地神様の信頼を損なうなど考えられません。身が竦みます」  開き直りにも思える態度に美玲は罵詈雑言を吐き散らす。一郎が間に入るが、行き場を失った怒りを全て向けられ、内輪揉めの様相となった。  騒動の中、住人達は何も言わずに時が過ぎるのを待っている。忠蔵への肯定に思えるが、それだけではないのかもしれない。忠蔵は遺書を「恐ろしい」と言った。陽子が死の間際まで高原地区を愛し、信頼していた事実が重荷なのだ。
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