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いっそ、恨まれたり罵られていれば楽だったのかもしれない。信頼関係がなければ悩まなかっただろう。高原地区に、陽子は大切に思われている。相談をされたとき力になりたかったはずだ。しかし、願いを叶え信仰を両立させる方法が見つからず、悲劇は起きた。
陽子の期待に応えられないまま、断たれた命への苦しさ。清香は親子を亡くした寂しさを感じていた。
「神様か星野さんか、どちらかを選ばなくてはいけなくて、こうなってしまったんですね。皆、本当は星野さんを助けたかった。今も二人を亡くして後悔しているのではないのですか」
日差しが白雲に遮られ室内が陰る。否定する者はおらず、集落の人々は畳の目を見つめている。忠蔵だけがうら悲しい視線を梓巫女に送っていた。
清一はこの流れを逃すまいと考えたのだろう。前のめりに語りかける。
「忠蔵さん、困りごとがあるのなら教えてください。僕が頼りないのであれば父がおります。上之前神社は高原の助けとなる存在です。もっと早く声をかけてくだされば、星野さんの遺骨もこのような形にならずに済んだはずです」
相談さえしてくれれば、誰も傷つかずに済んだのかもしれない。上之前神社が間に入り、睦月を別の形で安置する手助けができた。遺骨を隠す必要はなく、陽子は自死しない。だが、いくら訴えようとも後の祭りだ。消えた命は戻らない。忠蔵は神主の言葉にわずかに頭を振る。
「私はあなたを頼りないと思ったことはありません。いつも行事を手伝ってくれ、感謝しております。私達はコノハナサマが本当に大切なのです。大切だからこそ、コノハナサマの問題は我々で解決すべきだと思ったのです」
沈痛な面持ちに、清香の胸が痛む。許される行いではないが、問題を大きくするつもりはなかったのだろう。清一はそれ以上は責めず、協力を求めた。
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