7 その想いは三者三様

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「僕は神社を継ぐ者として、皆様の信仰を大切に思う気持ちはよく分かります。その上で聞いて下さい。皆様が怯える祟りとコノハナサマの問題は別のもの。星野さんを偲び、心から弔えば西渕さんにまつわる怪異は治まります。これから弔いの祝詞を広場にて奏上します。皆様にも協力をしていただきたいのです」  清一は義信の口寄せをした結果を伝えた。高原地区の人々は義信の奇怪な行動を祟りの影響だとしたが、実際は異なる。清一の見立てでは、親子の魂は穢れ始めているが、きちんと弔えば救いがある状態らしい。 「清一さん、星野さんはコノハナサマを信じておりませんでした。祝詞を上げても効果はないのではありませんか」 「大切なのは故人を偲ぶ心。高原でその気持ちを込める方法は祝詞ではないのですか」  神主と梓巫女で儀式を行うのは容易だ。しかし、亡き親子にしがらみがある以上、高原地区全体で臨むべきだと清一は主張する。  忠蔵は目をつむり思考にふけると、瞼を開き立ち上がる。どこへ行くのかと思いきや、礼子の正面にて膝と両手をついた。土下座だ。この場をやり過ごすための行いではなく、本気なのだろう。丸い背中には哀愁が漂っている。忠蔵は「すまない」と掠れた声で謝罪した。 「私は祟りを恐れるあまり、礼子さんに全てを押し付けようとしていました。責任は私にあり、決して許されることではありません。ですが、どうか、星野さんのために協力をしていただけないでしょうか」 「……忠蔵さん、私は長年の付き合いから、あなたがまとめ役として苦慮しているのは知っています。今回の件は苦肉の策なのでしょうけれど、長い付き合いの友人達に責められるのは、さすがに堪えました。でも、私も一歩間違えれば追い詰める側に回っていたかもしれない。だから、二度と過ちを犯さないためにも、今日でお終いにしましょう」
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