7 その想いは三者三様

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「本当に申し訳ない。……ありがとうございます」  忠蔵は集落の人々をまとめあげ準備に取りかかる。儀式に必要な道具や供物を広場へと運び、清香達も手伝いに加わった。色々あったが、清一の助力もあり何とかなりそうだ。 「今日の兄さんは人一倍格好良かったな。いつか兄さんのような、頼りがいのある大人になるんだ」  手を動かしながら志を口にすれば、一郎は真顔で答える。 「清香は清一さんを目指さなくて良い。梓巫女として充分立派だよ。自信を持って」  労いではなく、心からそう思っている。一郎の言葉に込められた慈しみは胸の奥へするりと届く。じんわりと温かい感情が心地良い。謝辞を伝えれば、訪れたのは妙な沈黙だ。照れくさいような、愛おしいような、不可思議な感覚に緊張してしまう。これでは準備に集中できない。清香は適当な理由をつけてその場を離れた。  美玲と合流し作業をしていると、忠蔵に呼び止められた。義信の葬儀を改めて高原地区で行いたいとする相談だった。  美玲は高原地区の風習は受け入れ難く、交渉は決裂すると思われた。だが、忠蔵が詫びとして無償で引き受けたいと提案すれば、態度は一変。タダよりは安いものはないと前のめりだ。清香は小さく息を吐く。丸之介を信頼して葬儀会社を選んだはずなのに、なんとも現金な性格である。 「美玲さんから弔う許可を得ただけでも救われます。私は義信さんを助けられず、和解できなかった。彼に許してもらえるかは分かりませんが、精一杯参らせていただきます」  心残りを抱える忠蔵に、清香は一歩前に出る。 「西渕さんは忠蔵さんを含めて、地域の皆さんと仲良くなりたいと思っていました。隠しごとはせずに星野さんのお骨のことを正直に話して欲しかったんですよ」 「そうか、清香さんは梓巫女でしたね。私は彼を信頼していますし、良き友人だと思っています。だからこそ遺骨の真実は話せませんでした。私達が犯した罪に彼を巻き込みたくなかったのです。ですが、コノハナサマに怯えるあまり、命を奪う結果となってしまいました。まとめ役とは名ばかりです。義信さんには顔向けできませんね」
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