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丸之介は二人に気づくとグローブの手を大きく振る。
「よくぞ来てくださいました。一か月越しの再会に感謝感激雨あられ、心待ちにしておりました。さあ、どうぞ。こちらです」
建物の内部は冷房が効き肌寒い。設定温度を責任者の体形に合わせているのだろう。祭壇の見本や終活のパンフレットが置かれた式場を進み、丸之介は「private」の扉を開けた。この先は基本的に従業員のみの出入りとなる。真新しい通路を歩きながら一郎は問うた。
「今回の依頼もいつも通りですかね」
「それがちょっと訳ありでして。故人様の身体を保護しているのですが、由々しき問題が起きております。悩んだ末にご遺族様と相談をさせていただき、お二人に依頼の運びとなりました。後ほどご説明致しますね」
どうやら今回の依頼は普段とは違うらしい。丸之介の言う由々しき事態が想像できず、清香は首を傾げた。
丸之介からは数回依頼を受けた経験がある。孤独死の遺体から霊を口寄せし、故人の情報を引き出すのだ。
人は亡くなると、一般的には身内が遺体を引き受け葬儀を行う。だが、孤独死では親類が近くにおらず、身元の引き受けに困るケースがある。その場合は遠方の親族を探すか、見つからなければ自治体が主導となり火葬しなければならない。親族を探すのは手間なうえ、自治体での火葬となれば費用は税金から捻出される。そこで梓巫女の出番というわけだ。
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