7 その想いは三者三様

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「あんたが出してくれたのか。お嬢さんありがとうな」  清香は挨拶をし名乗ると一郎を紹介しようとする。だが、大仰に断られた。 「野郎はどうでもいいわい。清香ちゃんは高校生なのかな。いやあ、肌がぴちぴち、髪はつやつや、若いっていいねえ。お近づきになりたいのう。仲良くしようじゃないか」  妙に馴れ馴れしい。困惑していると、美玲が義信は大の女好きだと教えてくれた。離婚の原因は浮気だ。あの調子で口説けば、妻は嫌な気持ちになるに違いない。 「女子高生相手に盛りつくなんて、とんでもない迷惑野郎ね。とっとと火葬したいわ」 「火葬……? 清香ちゃんはわしを燃やしにきたのか」  義信の表情が途端に(かげ)る。清香がその変化に警戒すれば、唐突にスマートフォンが鳴った。見れば非通知の着信があり切れない。残る三人のスマートフォンや葬儀式場の電話も鳴り始めた。  丸之介は清香に目配せをする。葬儀式場の責任者として電話対応をしたいが、一人では心細いのだろう。この場を離れて良いものか迷えば、一郎から背中を押された。 「事務所が気になるんだろう、行ってこいよ」 「怖がりなのにありがとう。少しの間ここをお願い」  駆け出せば、美玲が梓巫女を勝手に向かわせた不満を吐き出した。怒号から逃れ丸之介と共に事務所へ踏み入る。受話器を取るが着信音は鳴りっぱなし。テレビは砂嵐となりコピー機は不快に唸る。極めつけはパソコンの画面だ。骨を焼く炎より苛烈で、ずぶずぶなりんごより醜悪な赤に染まる。丸之介は蛙を潰したような奇声を上げ、半泣きの状態で保冷庫の前へと走った。  逃げる巨体を追う格好で清香は一同に合流する。清香は義信の霊障だと断定した。弔いへの抵抗と怒りが暴走している。怪異には背筋が凍るが、昨夜の怪奇現象と比べれば何てことはない。弦に指先を添えれば、なぜか美玲が前に出た。何をするのかと思いきや、前方の空間を睨み、物々しい口調で一蹴する。 「静かにしやがれ、このクソジジイ」  無慈悲な激高に、思わず梓弓を下す。そこに立つのは鬼神か、阿修羅か。怒りに圧倒されて窒息しそうだ。義信は娘の迫力に目を剥くと平伏した。丸之介は怪異が鎮まるのを見計らい、怯えながらも現状確認のためにその場を離れた。
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