7 その想いは三者三様

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 事の始まりは五年ほど前に遡る。義信は競馬に金をつぎ込み借金があった。督促から逃げるために住まいを転々としてきたが、今回は難儀していた。引っ越し先がなかなか決まらないのだ。必死に探し回り、ようやく見つけたのが高原地区のワケあり物件だった。この際住めればどこでも良いと、深く考えずに即決した。  一軒家には確かに問題があった。越した初日に忠蔵が怪しい宗教の勧誘に現れた。気乗りはしないが、断れば借家から追い出されるかもしれない。仕方なく、上辺だけ合わせ同意した。  コノハナサマの信仰は義信の物事にのめり込む性格に合っていた。ギャンブルに費やす時間は氏子の務めに変わり、借金は完済。馬券を購入する回数は激減した。生活は安定し高原地区での交流を楽しんだ。  ある日、氏子仲間が幼子を連れ歩くのを見た。聞けば息子が孫を連れて遊びに来たと言う。脳裏には別れた妻と娘の姿が浮かぶ。娘は子どもがいてもおかしくはない年齢だ。元気にしているだろうか。  義信は思い切り、(ふみ)(したた)めようと決めた。別れた妻が今も同じ場所に定住しているのかは不明だ。返事が無ければそれで良く、手紙を送る行為で気持ちが落ち着けばと考えた。  数日後、娘から思わぬ返事が来る。手紙には顔を出しますとあり、後日、義信の自宅にて再会を果たした。グレーのスーツにピンクのヒールを履き、見た目にそぐわぬ怒気を滲ませる。手紙は別れた妻が受け取り「ろくでなしから怪文が届いた」と美玲に連絡が入ったらしい。 「不貞行為で娘を捨てた父親の顔を拝みに来たのよ。久しぶりに会えた感想を聞かせてもらおうかしら。ほら、何か言いなさいよ」  成長した娘と別れた妻が重なった。義信はたじろぎながらも率直な思いを伝える。 「美玲の言う通り、わしはろくでもない男だ。謝って許されるわけではないが、それでも詫びを入れさせてくれ。苦労をさせて本当にすまない」
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