朧げな記憶

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 「(うみ)、また何かあった?」  苦笑交じりに、キッチンで手を動かしながら、カウンターでぐだっと突っ伏す自分に声をかけるのは、舞台美術家の母だ。大きなミュージカル劇団で、主に舞台上の装飾をしている。  ちなみに父親は、と言うと、そのミュージカル劇団で俳優をやっている。二人の出会いは、想像に難くない。  二人は、わざと芸名の名字にしてるから、私がそれぞれの娘だってことはバレていないし、多忙でも優しいところは変わらない。  「それがさ……またやっちゃった……。大学生にもなって情けない……。」  「あぁ、いつも言ってる意見言えないってやつ?」  コンロの火をつける音を聴きながら、曖昧に頷く。  「んー……おかしいなぁ……。」  何かを炒める音と、香ばしい香り。  しばらくして音が落ち着いてから、母がこちらを見た。その目には、明らかな困惑の色が浮かんでいる。  「海、今はそんな状態だけど……昔はちゃんと意見言えていたのよ? それも、少しこっちが止めないといけないぐらい、ハッキリと……。」
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