朧げな記憶

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朧げな記憶

 「じゃあこれで。海ちゃんはどうしたい、とかある?」  「へ!? あ、いや……特に何も無いよ。これでいいと思う。」  思わず笑みを浮かべ、取り繕うかのように言った後、酷い自己嫌悪が襲ってきた。  (あー……またやっちゃった……。)  いつもこうだ。  何かしら変えたい部分はある。昔から色々と創作するのが大好きで、特に美術などは大好きだった。  あの壁の装飾、きっと造花にしたら立体感が出て綺麗なのに。あれやるぐらいだったら、いっそ風船膨らませて壁に貼り付けた方が……美術が好きで、舞台の装飾などを仕事とする親を持つ自分からすれば、直したいところはいくらでも出てくる。  でも、言えない。  別に緊張する、という理由ではなく、人に流されやすい、という理由でもない。  昔からずっと、自分の意見を言うことが怖かった。  否定されるのが怖い。色々な創作をやっている親の仕事仲間にも聞いてみれば、自分の世界観を否定されることは辛いかな、と言っていた。  気持ちは分かる。  自分が好きで作り、身を置いている自分だけの世界。それは時に、居場所ともなり、逃げ場ともなる。  その場所を真っ向から否定されることが、ただ怖くて……いつしか、自分の意見を言えなくなっていた。
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