8人が本棚に入れています
本棚に追加
そこで言葉を切った彩矢の目には、涙が浮かんでいた。
「ほら、保育園の時ってさ、紙飛行機とかで遊ばない? それがテラスの屋根の上に乗っちゃったって泣いていた子がいてね……」
ようやく話が見えてきて、思わず腕を絡め、自分を抱きしめる。
「先生を呼べばいいのに、泣いている子をほっとけなかったんだろうね。夕陽、必死に柵とか乗り越えて、先生用の階段から屋根に上がって、紙飛行機を落としてくれたの。」
彩矢の目から静かに涙が溢れ、ぽとぽと……小さな音を立ててアルバムの上に落ちた。
「夕陽、紙飛行機を投げた時にバランスを崩して……そのまま……。」
その後、途切れ途切れになりながら、彩矢は話してくれた。
当時、保育園の管理がずさんだった、と怒ったのは、周りで夕陽が落ちたところを見ていた子の親だったらしい。
一番の被害者だった吹田家、つまり自分の両親は一切怒らず、慰謝料も受け取らなかったという。
葬儀に行った時、泣きじゃくる彩矢に、両親が涙を流しながら言ってくれた。
『ありがとう、夕陽の……子供の頃という、一番大切な時間を一緒に過ごしてくれて……。』
その腕の中には、まだ姉が死んだことも理解出来ないほど幼い、赤ん坊の海がスヤスヤと寝息を立てていたのが、子供ながらに辛かった。
彩矢が話し終えた瞬間、涙を堪えて立ち上がり、礼もそこそこに家へと走り出していた。
最初のコメントを投稿しよう!