8人が本棚に入れています
本棚に追加
*
あれから一ヶ月。
自分の誕生日も過ぎ、いよいよ成人式の日がやってきた。
会場の前で真桜や彩矢を見つけて手を振りつつ、両親と共に手を握りながら歩く。母の手元には、ずっと両親の寝室に置かれていたという、夕陽の遺影が持たれていた。
「真桜ー! やばい、めっちゃ可愛い!」
「ありがとう!! ってか、海の方が可愛いでしょ!! それに、夕陽さんも来てくれてるんだ……いいねぇ。彩矢が今にも泣きそうになってるのは、これが原因ってことか。」
見れば、彩矢の目に涙が浮かんでいる。その視線は、自分達ではなく、夕陽の遺影に向けられていた。
「それより……私達の大学が会場になるなんて……。」
「大学、市内で一番大きいんだってさ。」
講堂に向かって、雪の中を歩き始める。
今日は家族全員が見てくれている。子供の頃、ずっと背中を押してくれていた夕陽を思い出した今、きっと自分は新たな一歩を踏み出せるだろう。
「そういえば、夕陽が小さい頃に『いもうとへ』とか書いて隠してあった手紙が見つかったの。」
「何それ、もはや天国からの手紙……。」
「ほんとに! でね、内容が……」
天国からの手紙、という表現にクスッと笑いつつ、空を見上げて口を開いた。
「ずっとそばにいるよ、だってさ!」
「うっわ、胸熱展開……海、それで本出す? それか、感動ストーリー集めているバラエティにでも応募する?」
「本気で考えようかな。」
微笑んで見守ってくれる双方の家族、冗談を言い合える親友。きっと、いや、絶対に前を向いて進んでいけるに違いない。
雪が降っている寒さも、もはや感じないほどに、心が温かくなっていた。
そんな一行を、門の上に座った少女が見つめ、静かに微笑んでいた。
(終)
最初のコメントを投稿しよう!