朧げな記憶

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 「え? 昔は意見言えてた? 他人が止めるほどに?」  頷くと、真桜が少し困惑した笑みを浮かべつつ、講義室の中を見渡した。  もちろん、多くの生徒がいる講義室の中に、真桜が求めている答えは無いだろう。  「まさか……え、お母さん誰と一緒に過ごしていたの?」  「いや、サラッと失礼なこと言ってるの自覚してる? って言おうとしたけど、正直私もそう思うんだよね。ほら、私がちゃんと意見言えるの、お父さんとお母さん、そして、真桜だけじゃん?」  「そうだね。」  一呼吸置いてから、一番真桜に聞きたかったことを問う。  「私、そんなに意見言えてた……?」  少し考えてから頷いた真桜が、んー……と声を漏らしながら、天井を仰いだ。  「そうだなぁ、ほら私達さ、今年の四月からもう三年生じゃん? 保育園や小学校の頃の事なんて覚えてもいないんだよなぁ……。」  そうだよねぇ、と呟きながら、窓の外へ視線を移す。  元から人付き合いが得意な方ではない。それは自覚している。  この性格で困ることと言えば、意見が言えないこと。それは大学三年生になる直前の今でも変わらないが、それ以外と言われると反応に困る。強いて言うなれば友人が少ないことだろう。  (なんだろう……この感じ……)  何とも言えぬ、不思議な気分。  母も真桜も、決して嘘をつく人ではない。だからきっと、意見は言えていたはず。よく考えれば、うっすらとその時の記憶もある気がする。  違う、自分が引っかかっているのはそこではない……真桜の他に、誰か友人がいた気がするのだ。  今ではいない、大切な友人と呼べる、そんな人が……。
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