遺言書

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 卒業式の日に〇〇ちゃんと別れるとき、寂しいというよりもっと抽象的な、かなしい熱のようなものが胸を満たしていたのを覚えています。  熱、私は憂鬱な気分になるとこころの温度が上昇し、それに引きずられて体全体がぐっと熱くなるのです。父に虐げられたあとや、私を取り繕っているとき、私は身体が熱くて仕方がありませんでした。ぺしぇちゃんと話しているとき、私は身体の熱を忘れることができるのです。  そういう意味では、彼女は私にとって冷却剤のような存在でした。そして次第に、私は彼女の熱も冷ましてあげたいと思うようになりました。しかし私たちは携帯電話も持たせてもらえませんでしたから、互いに片方が中学校の前で待ち伏せするしかありませんでした。最初は毎日のように逢瀬を繰り返していましたが、中学二年生に上がる頃には次第にぺしぇちゃんが待っていることもなくなってしまいました。  彼女のいない生活を送っているとき、ふと、神様はいないんだと思いました。もし神様がいるのだとしたら、ぺしぇちゃんの隣に私を置き続けるだろうからです。彼女には私という冷却剤が必要だったのです。私は、私のいない間に彼女が壊れてしまわないか心配でした。  しかし実際、冷却剤を必要としていたのは私のほうだったのです。彼女のいない日常は、まさに地獄のような日々でした。私は次第に、自殺を考えるようになりました。本当の冷却剤とは、死そのものなのではないかと思うのです。
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