遺言書

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 私が彼女と再会したのは、大学生になってからのことでした。ある講義室で彼女を見たとき、天使は女神になったのだと思いました。教室の白い照明は、彼女の黒く艶のある髪に光輪のような光沢を作っています。私は、ようやくこの世界に神様が降り立ったのだと思いました。 「ぺしぇちゃんだよね?」  私がそう声を掛けると、彼女はしばらく動きを停止したあと、「ああー!」と驚いたような声を上げ、それから「久しぶり」と言いました。「桃、知り合い?」と軽々しく彼女の名前を呼ぶ同級生の言葉を遮り、私は彼女と飲みに行く約束を取り付けました。これは運命だとさえ思いました。私にはやっぱり、彼女の存在が必要だったのです。  私とぺしぇちゃんは、アルコールを体内に取り入れた反動で様々な話をしました。彼女が高校で恋人を作り、そいつに純潔を奪われた話を聞いたときは全身が熱くなりそいつを殺してしまいたい衝動に駆られました。それでも彼女が幸せそうに話をするので、私は笑顔を崩さないようにその声を体内へ取り入れようとしました。私は笑顔を作るのが上手だったのです。その日私は、自分がいなければぺしぇちゃんが大変なことになると確信したのでした。  酒に酔ってふらつくぺしぇちゃんを抱え、私は彼女を自分の家へ連れて行きました。それから呂律の回らない彼女を自分のベッドに寝かせました。そして、彼女の服を一枚ずつ除けていきました。彼女の肌には、たくさんの青が浮かんでいました。私はそれを見て、昔に考えていた殺人計画を思い出しました。彼女の白い肌に指を這わせると、私の全部が吸い込まれてしまうような気がしました。アルデヒドの香るその口から出た彼女の甘い声を、私は一生忘れることはないでしょう。やっぱり私は、ぺしぇちゃんのために彼女の両親を殺す必要があると思いました。そのために私は、その夜ぺしぇちゃんに秘密で彼女の家の合い鍵を作りました。
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