遺言書

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 次にぺしぇちゃんを見たとき、彼女は首を吊ってしました。彼女の足元――正確にはぶらぶら揺れる足の下と言う表現が合っているかもしれません――、そこに落ちている遺書によると、彼女はどうやら両親を愛していたようでした。そしてその遺書に、私の名前は一切出てきませんでした。  私はその遺書を手に取ると、「お父さん」「お母さん」の部分を全て油性ペンで塗りつぶし、その傍らに自分の名前を書き込みました。『私は〇〇が大好きでした。』、心が空っぽになってしまったようでした。悲しくないし、嬉しくもない。しかし、胸の内側が、頭が、本当に心以外の全てが熱を帯びているようでした。私の心はきっとぺしぇちゃんのなかにあったのです。彼女は私の心そのものだったのです。  心を失ってしまった私は、自分でも操り人形のようだったと思います。何に操られているかというと、それはたぶん、人間の生きる本能みたいなものなのだと思います。だからこれを私の遺書とし、私は彼女の隣で首を吊ろうと思うのです。
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