異形の神たち

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 古めかしい柱時計が二十二時を知らせる。  祭りのあとというのは、どうしてこうも寂しい気持ちになるのだろう。ノスタルジックな感傷に浸りながら、襖で仕切られた座敷で胡座をかいた。あたりを見まわすと、まるでリサイクルショップの倉庫、あるいはフリーマーケットの露店のように、雑多なものがひしめいている。  唐傘やら壺やら和箪笥、ひときわ異彩を放っているのは、刀掛台に置かれた妖刀。隣の大きな机に置かれた焼酎瓶は、芋、麦、米、全てのジャンルが揃っている。胡蝶蘭の形をした古いランプや、灯籠、提灯、刺繍の施された帯、扇子に火鉢‥‥‥。  そして俺の向かいには、黒い浴衣を着た如月(きさらぎ)が窓枠に片足を掛けて座っている。月明かりが照らした脛は、女のように白く透き通っていた。 「一迦道、念珠はちゃんと渡したんだろうな」  夜風に吹かれた長髪が、呼吸をしているようにすらすらと揺れている。  俺は浴衣の袖から煙草を取り出し、指を鳴らして火をつけた。 「お嬢はもう持ってるし、坊っちゃんとクマちゃんにはさっき祭りで渡したし、桜井ちゃんにも届けるよう伝えてある」  表向きは魔除けということになっているが、本当はそれぞれに術が掛けてあって、あやかしものが接触すると、俺のつけた念珠が反応するように細工してある。万が一危険な目に遭っても、直ぐ助けに行けるようにする為だ。 「さて、ここから奴はどう出てくるか‥‥これ以上、面倒事を増やしたくないがな」  苦々しくそう言うと、如月は煙草の煙を吐き出した。面倒事で片付けられるほど楽な話しじゃないが、それくらいのテンションでいてくれた方がありがたい。そして、如月のそういうところは嫌いじゃなかった。
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