異形の神たち

3/42
77人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
 俺は、蜘蛛の巣状に広がる煙草の煙を眺めながら、ぼんやりと思想に耽る。  貂蝉と亜久莉に殺されそうになった桜井志音を救う為、分裂しそうになった駿河七神を纏める為、白檀香は「橘一葉に呪い返しを使う」と言って、自らにを掛けた。    あの時首に巻かれた南京錠が、なによりの証拠だ。  もし、呪い返しの影響で桜井志音が死んだ場合、駿河七神に課せられた。という縛りに叛いたと見做され、南京錠が白檀香を絞殺するという仕組みである。  幸い、桜井志音は命を落とすこともなく、風邪の症状程度で済んでいる。もし、桜井志音の念が悪意に近いものであったなら、いや、忌の神の協力者であれば尚のこと、呪い返しの反動は大きくなった筈だ。  その状況を踏まえて考えると、桜井志音が協力者である可能性は低い。  被害者か、それとも協力者の近親者か‥‥。どちらにしても、鍵を握っていることだけは確かだった。 「桜井ちゃんは何者なんだろうな。呪い返しの影響も出てないし、縛りを背負った白檀香もいつも通り‥‥ということは、犠牲者の線が濃厚か」  野苺の模様が描かれた有田焼の灰皿に煙草を押し付けると、如月は俺の手元を見ながら深い溜息をついた。 「一葉が言うように、志音が忌の神に協力する理由が無いからな。どうしても殺したい相手が居るとか、周りの人間が全員死ねばいいとか、そういう危うい思想を持ってれば別だが」  志音は普通の子だ、と言って、如月は窓の外を見やる。  いつの間に降り出した雨が、しとしとと音を立てていた。コンクリートや草が濡れ冷やされた匂いが、湿気を孕んだ風とともに窓から入ってくる。 「‥‥‥‥あいつら、降る前に帰れたかな」  そう言って、眉を下げる如月を見ていると、忌の神の一件が嘘ならいいのに、と思ってしまう自分が居た。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!