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しかし、そうは問屋が卸さない。
俺たちにはすべき事が二つ残っている。
一つ目は願いを叶えると噂の如来像を見つけ、破壊すること。もう一つは、忌の神を探し出し、二度と現界出来ぬよう葬ること———
なんとも骨が折れる事態だが、この街の神様である手前、蔑ろには出来ない。
「誰か来たな‥‥」
不意に如月が呟く。
俺たちの居る二階の座敷からでは、客人の姿は見えない。
亜久莉が野暮用で外している今、死者は案内人を通さずに冥界へ行く手筈になっている。ならば、駿河七神か高校生のうちの誰かだろう。
目を閉じて神経を集中させると、かき氷屋の結界に誰かが触れているのを感じる。
鋭い霊圧と香のような芳しい香り。
俺が更に神経を研ぎ澄ませると、濡れたコンクリートの上で輝く大きな白蛇の姿が見えた。
「白檀香だ」
祭りの売り上げを一迦道商会に持って帰ったあと、かき氷屋に立ち寄ったのだろう。
畳に手を突いて結界を解除すると、閉じていた襖がするすると開いた。そこから見える鈴蘭型のランプの下、踊り場のあたりに大蛇が現れる。
「またずいぶんと珍しい格好だな」
立ち上がった如月は、和箪笥からタオルを取り出し、「これで身体を拭け」と言って、大蛇に投げる。
それを受け取ろうとした大蛇がぴょんっと跳ねると、身体が煌々と光りだし、白髪の少女に変貌した。
「雨の日はこっちの方が便利なのさ」
タオルを被った白檀香が、わしゃわしゃと髪を拭き始める。オリーブ色のワンピースから滴り落ちる雫を見ていると、香の匂いが鼻をかすめた。
出会った時からこの匂いは変わらない、などと思っていると、癖のない白髪から覗く麹塵色の瞳が、俺を鋭く射る。
「卑猥な目で見るんじゃないよ」
俺が?と言って自身を指し、お前を?と言って白檀香を指す。そのあと「ないないないない、幼女趣味はない」と言いながら、顔の前で手を振った。
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