忌み神の匣

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「おう、いいサイズ感だな。お前はこれから野次馬を誘導し、梢さんがここにいることを知らせてくれ。俺は本堂に戻って箱を回収してくる」  送り犬は、ワンっ!と吠えると、爪を鳴らして走り去った。俺はその後ろ姿を見送り、塀を登って敷地に戻る。煙に巻かれきな臭さの漂う境内で、俺は呪物の気配を辿った。  確かに近くにある———人々の悲痛な叫びが大きくなる。目を閉じたまま倒れた柱をくぐり抜け、心眼で呪物を探す。  頭が割れるほど声が大きくなった瞬間、心眼に黒い塊が映った。間違いない。これがあの桐の箱だ。  心眼を閉じて目を開ける。  視線のその先。火柱が轟々と上がり、真ん中が裂けたかと思うと、口を開けた蛇のような炎が向かってきた。 「おいおい、炎を操るなんて聞いてないぜ」  直ぐに体の前で指を組み、炎を弾き飛ばす。  そのままカタシロを取り出して真言を唱えると、大條寺の下から水を沸き上がらせた。  ドンっ、と音を立て、床下から噴き出す水柱。それが箱を浮き上がらせながら、辺りの炎を鎮める。少し派手な音が出てしまったが、まあ、爆発ってことで誤魔化せるだろう。  やっと姿を見せた桐の箱に向かって、俺は一歩ずつ歩みを進めた。中身は空だと分かっていても、この気配は尋常じゃない。背中を伝う汗は熱気から来るものか、それとも恐れから来る冷や汗か。ビシビシと肌を叩く圧を感じながら、俺は左手で箱に触れる。  一瞬、全身の毛を逆立てるような寒気を感じたが、直ぐに静かになった。そういえばあの鳥が消えた辺りから、叫び声も聞こえない。 「いきなり黙るのも気持ち悪いが、とりあえず貂蝉のとこに持ってくか」  本当は触りたくないところだが、俺は仕方なく両腕で抱え、貂蝉たちのいる神社へ向かうことにした。
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