異形の神たち

8/42
前へ
/67ページ
次へ
 その気持ちは分からないでもない。  神格を得た俺たちは、現世(うつしよ)でいう八尾萬(やおよろず)の神に該当する。  とはいえ、如月はから生まれた神であり、白檀香と亜久莉を除く他の奴らは、成仏できない魂が元となっている。  そんな幽霊と偶像の成り上がった駿河七神は、信仰心を集めた神々から軽蔑されるのが常だった。  それでも当時の如月は諦めなかった。  街と相模辺路を守る為、積極的に寄り合いに参加していたし、神としての掟も心得ていた。  だからこそ婚姻の承諾を得る為に、桜子を寄り合いに連れて行ったのだが、  人間の女を妻に迎えるなどと馬鹿げた事を抜かすな———穢らわしい邪神教の娘が、よく顔を出せたものだな———と、罵声を浴びせられた。  ただ一人、東山(とうさん)の神を統括する天神珠命(あまのかぐたま)というだけが賛同してくれたらしいが、結局桜子と如月は破局し、俺たちと東山の神々は、犬猿の仲になったのだ。  パチンっ、と音がして顔を上げる。  如月の人差し指の先に、赤い炎がちろり、と揺れた。それが封筒の角に触れると、怒りや苛立ちを孕んだかのように激しく燃え上がる。 「この寄り合いは、『邪神報告規定』に則り、亜久莉が書いた禍津神の報告書を元に開かれる。招待状なんか必要無いのさ」    如月の白い顔にちらちらと炎の反射が煌めいている。白檀香が「ああ、そうだな」と言って指を鳴らしたとたん、ボンっと爆発音がして、一瞬のうちに封筒が灰になる。 「そういや、東山を統括していた尾張の神‥‥確か天神珠命と言ったな。そいつが禍津神によって殺されたらしいぞ」 「殺されただぁ!?天神珠命っつったら、東山最高位の神だぞ、そんなやつが簡単にやられるわけないだろ」  俺の声のあと、短い沈黙が流れる。  東山で最高位の神が禍津神に殺された。その事実が俺の頭を混乱させる。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加