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否定せずにクロナンは薄笑いを返す。
王と王弟の仲が芳しくないという話は有名で、ここにいる誰もが知っているはずだ。
「コーヘリッグ公爵の奥さまは、高価な輸入薬を扱う大きな薬問屋のご出身ですからね。国内で安全な薬が作られて安く流通するようになれば、ご実家が得る利益はずいぶん減ってしまうことでしょう」
オディーナは、こめかみに手を当てる。
「あの強欲公爵夫妻の孫が次の王位に就くのかと思うと、暗澹たる気分になるわ……」
アイリーネは王家の継承問題を思い出した。
現国王オーシェンは今年の誕生日で六十五歳になるが、妻や息子に先立たれ、直系の後継者はいない。
王弟であるコーヘリッグ公爵も六十歳を超え、この国の定めにより若い世代の血縁者よりも継承順位が下がることとなった。
そのため、まだ成人していないこともあって公式に宣言されてはいないが、公爵の亡き一人息子の遺児が次代の国王になると目されている。
「やっぱり、ゆくゆくはあの孫が継ぐことになるのか……」
フィンが不満げに呟くと、クロナンは眉間に皺を寄せて笑った。
「十四歳にして醜聞まみれの放蕩者だが、他に誰もいないからなあ。今年の誕生日式典で公に後継者だと認めるようにと、公爵が陛下に相当せっついてるらしい」
〝末恐ろしき蕩児〟とあだ名される、公爵の孫イドランが引き起こした騒動の数々は、王都から遠く離れたエルトウィンにまで伝わってきている。
賭博場で由緒ある城館を賭けて負けただの、相手に鈍らな剣を持たせて卑怯な決闘をしただの、高級娼婦を次々に落籍せては別荘に囲い込み、同居を強いられた女性同士が争って刃傷沙汰になっただの、どれもこれも眉をひそめるようなものばかりだ。
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