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1 漆黒のハヤブサ、騎士隊に復帰する
春が終わろうとしていたある日、装飾のない馬車が検問を済ませエルトウィン騎士団第一中隊の駐屯地に入ってきた。
馬車は司令部が置かれている堅牢な石造りの棟の前で停まり、御者が客車の扉を開けると、黒地に金糸の刺繍が施された隊服に身を包んだ騎士が姿を現した。
漆黒の長い髪をひとつに結んだその騎士は馬車を見送ると、建物の天辺で風に煽られてはためく隊旗を仰いだ。
青い空によく映える、金色の地に黒い剣が描かれたその旗を、騎士は磨き抜かれた煙水晶のような瞳でじっと眺め、実に嬉しそうに破顔した。
「ただいま」
小隊長のうちの一人で、〝漆黒のハヤブサ〟の異名を取る十九歳の騎士、グラーニ中尉の半年ぶりの帰還だった。
颯爽とした足取りで建物に入っていく強者の正式な名は、アイリーネ・スーリア・グラーニ。ドミナン伯爵家の三女である。
◇ ◇ ◇
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