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第一中隊で唯一の女性隊員であるアイリーネには、専用の小さな更衣室が設けられている。当然、入浴も男性隊員とは時間をずらし、最後に大浴場を一人で使うことになっている。
前線や遠征先ではそこまでのことはできないが、「高潔であれ」の信条に誓いを立てている騎士たちには〝ところ構わず裸にならない・誰かが肌を晒すときは不躾に見るようなことはしない〟という暗黙の了解がある。
「――これでいいかな」
いつもは分けている銀髪の前髪を下ろしながらキールトが言った。
「わあ……」
足首まである灰白色の長衣の腰に細い帯革を締め、頭巾付きの灰色の掛け襟を身に着けたキールトは、まるで本物の神学生のように見えた。
「キールト、完璧」
「全く違和感ないっすね」
「よかった。じゃあフィン、席を替わろう」
フィンはキールトが座っていた向かい側の席に座るなり、緊急出動時並みの速さで服を脱ぎ始めた。
「フィン、そこまで急がなくても大丈夫だぞ」
キールトが声を掛けると、フィンはシャツの袖から腕を抜きながら言った。
「アイリーネの女装には時間が掛かるだろうから」
もともと女ですけど! とアイリーネが厳しい目を向けたとき、フィンはすでに腰を覆う短い下着だけになっており、これから着るものを手に取ろうとしていた。
「…………」
アイリーネは息を呑み、驚きの瞬きを繰り返す。
フィンはもう線の細い少年ではなかった。隅々まで鍛えられたしなやかな筋肉を、なめらかな素肌が覆う伸びざかりの引き締まった肢体は、王都の広場にある伝説の若き英雄の彫像を思い起こさせるほどだった。
「……じろじろ見んなよ」
アイリーネの視線に気づいたフィンが、口を尖らせる。
「やらしい目つきで」
「や……!?」
アイリーネは顔を赤くして抗議した。
「そんな目で見るわけないでしょ!」
憤慨したアイリーネがそっぽを向いているうちに、フィンの着替えは終わった。
「おー、似合ってるぞ、フィン」
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