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薄く晴れた冬空のような水色の瞳が、アイリーネを見る。
「フィン、なの?」
不機嫌そうに唇を結んだまま、フィン・マナカールは軽く頷いた。
アイリーネが静養前まで受け持っていた小隊にいた二歳年下の後輩騎士だ。物怖じしない態度と伯爵令息とは思えない言葉づかいは相変わらずのようだが、半年前はまだ幼さが残っていて身体もずっと小さかった。
「ああそうか、フィンはアイリの小隊にいたんだったな」
隊長は頑丈そうな歯を見せて笑った。
「アイリの指導の賜でもあるぞ。フィン・マナカールは先日めでたく中尉に昇格し、四人目の小隊長に就任したんだ」
「えっ」
「増員に伴って小隊の再編成が検討されていただろう? わが第一中隊も四つの小隊を持つことになってな」
以前は三つに分けられていて、アイリーネ、キールト、ヴリアンがそれぞれの隊をまとめていた。
「アイリが不在の間、フィンに小隊長代理を任せたんだが、なかなかよくやってくれてなあ。先月、国王陛下のエルトウィン行幸に合わせて催された剣術大会でフィンが見事に優勝して、オーシェン王からも直々に昇格を進言されたんだ」
「フィンが……優勝」
王の御前試合ともなると、各中隊から選りすぐりの精鋭が集まったことだろう。フィンがそこまで優れた剣の腕の持ち主だった記憶はないが、部下だった後輩の成長と活躍が嬉しくて、アイリーネはフィンにまっすぐな笑顔を向けた。
「すごいね。おめでとう、フィン」
ほんのわずかに、フィンの唇の両端が上がったかのように見えた。
「……ああ、どうも」
各々がぎょっとしたようにフィンを見た後、ヴリアンが再び苦言を呈した。
「フィン、元上官にそんな口のきき方はどうかなあ」
フィンはすげなく返す。
「今はアイリーネと同等ですから。壁を作るような話し方なんて要らないでしょう」
部下たちからのアイリーネの呼称は「グラーニ小隊長」で、フィンもかつてはそう呼んでいたはずだ。
ヴリアンはまだ何か言いたげだったが、アイリーネが制した。
「いいよ。これからは同じ小隊長としてよろしくね、フィン」
「……ああ」
年下の騎士は、アイリーネから少し視線をずらして無愛想に答えた。
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