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2 年下騎士は偉そうで
「アイリ、やっぱり目に余るよねえ」
アイリーネが隊に復帰して一週間ほどが過ぎたころ、食堂でアイリーネがキールトと隣り合って昼食を取っていると、傍を通りがかったヴリアンが、困ったものだというように眉尻を下げて切り出した。
「君に対してのフィンの態度や言葉づかいだよ。もともと物言いは丁寧な方じゃなかったけど、君のことは『おまえ』呼ばわりまでして……」
ヴリアンは王家とも縁続きの侯爵家の出身で、騎士たちの中でも目立って物腰が柔らかい。
「うん……。まあ小隊長同士だし、いいよ」
「そう? あんまりひどいようなら、僕がガツンと言ってあげるからねっ」
立ち去るヴリアンの背中を横目で見やりながら、キールトがぼそっと訊ねた。
「……本当は、ちょっとムカついてるんだろ」
アイリーネはパンをちぎりながらため息をつく。
「まあね」
フィンは、正式に小隊長の任に就いたばかりとは思えないほど良くやっている。
受け持つ隊員たちのこともよく見ているし、剣の腕は目を瞠るほど磨かれていた。
図書室で熱心に調べ物や勉強もしているようだし、言葉づかいは相変わらずだが、会議などでの発言も筋は通っている。
訓練の合間には他の騎士たちと楽しそうに笑い合ったりしていて、関係も良好なようだ。ただ、ことアイリーネに対しては、明らかに当たりが強い。
「呼ばれ方とか口調なんかは、いちいち気にしないようにしてるけど……」
会議中での話し合いや訓練のやり方などでも、すでに幾度となく衝突している。
アイリーネが復帰したときフィンは「同等」だと言っていたが、それどころか、上からものを言われているように感じることもたびたびある。
「戦闘中でもないのにしくじっちゃったから、見くびられてるのかもね」
再び嘆息したアイリーネを、キールトは「そんなことないと思うぞ」と励ました。
「むしろ、あいつは君のこと」
「――アイリーネ」
ふいに背後から割って入ってきた声に、アイリーネはぎくりとする。隊の中で自分のことをそう呼ぶ人物は、現在一人しかいない。
振り返ると、予想した通りに無愛想な顔をしたフィンが立っていた。
「厩舎に、おまえと俺の新しい馬が届いたから、見に来いって」
◇ ◇ ◇
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