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「こちらが、グラーニ小隊長の体格にはよろしいかと」
厩舎係から優しい目をした栗毛の馬を引き合わされ、アイリーネは顔を輝かせた。
「うわあ、いい馬だね」
人の言葉が分かるかのように若駒は耳をピンと立てる。アイリーネが手を差し出すと、ゆっくりと鼻先を近づけてきた。
「よろしくね」
そっと鼻面を撫でると、馬は「もっと」とせがむようにすり寄ってくる。アイリーネは目を細めた。
「ふふ、かわいい。私、初めて乗った馬も栗毛だったんだ。懐かしいなあ」
背後から忍び笑いのようなものが聴こえてきてアイリーネが振り返ると、フィンが声を押し殺しながら肩を揺らしていた。
「な、何?」
フィンはいかにも可笑しそうに言った。
「いや……ガキみてーだなと思って」
年下に言われたくないよとムッとしつつもアイリーネは言い返すのをこらえ、フィンの傍で別の厩舎係に轡を引かれて立っている艶々とした黒い馬に視線を向けた。
「そっちは見事な青毛だね」
こちらも均整の取れた良い馬だとひと目で分かる。
「……でも、フィンにはちょっと大きくない?」
アイリーネの率直な感想に、今度はフィンがカチンときたような顔になった。フィンは数歩踏み出し、アイリーネのすぐ目の前に立った。
「俺は伸びざかりだからな」
少し高い視点から挑戦的にアイリーネを見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。
「おまえはもう伸びないだろうけど」
アイリーネは眉を顰めた。なるべく受け流そうと心掛けてはいるが、一矢報いてやりたい気持ちが抑えられない。
「そうだね」
アイリーネはできるだけ余裕ぶった笑顔を作ってみせた。
「私はもう子供じゃないから」
フィンは一瞬目を見開くと、不愉快そうに唇を噛んだ。
二人の険悪な雰囲気に耐えられなくなったのか、厩舎係の一人が遠慮がちに提案した。
「あ、あのう、試しに少し走らせてみてはいかがですか?」
◇ ◇ ◇
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