83人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ、王太子さまがご存命だったらどれほど良かったか……」
嘆くように言ったオディーナに、アイリーネは訊ねた。
「陛下のご長男は、成人されてはいたけど未婚のままで亡くなられたんだっけ」
「そうよ。とはいっても、わたくしたちが赤ちゃんのころの話だから、当時のことを直接知ってるわけじゃないけど。ご両親から薫陶を受けられたダネルド王子は、国民からとても愛されていらしたとか」
「素晴らしい王子さまだったそうですね」
ルーディカも笑みを浮かべて話に加わった。
「祖父母から聞いたことがあります。お優しくて聡明で、将来を嘱望されたお方だったと……」
オディーナが心底残念そうに言う。
「叶わぬ願いだけど、せめて王太子さまが身まかられる前にお子さまを遺してくださっていたら……なんて思ってしまうわ」
この国の王位は、直系の長子を優先して継承されることが定められている。もし亡くなった王太子に子供がいたら、女児だろうと男児だろうと正統な後継者となっていたはずだ。
「――ここでとやかく言っても、どうにもならない話になってしまいましたわね」
ため息まじりにオディーナは言うと、皆が食事を終えたことを確かめて召使いを呼び、何やら指示をして再び下がらせた。
「寝室の準備を頼みましたので、少々お待ちくださいませ。小さな別館なもので、部屋数が限られていてごめんなさいね」
オディーナは、客人たちに今夜の部屋割りを告げる。
「クロナン様は引き続き昨晩までと同じ客室を使ってくださいな。ルーディカさんが泊まられていたお部屋は、フィン様にお譲りいただけるかしら? アイリとルーディカさんは、主寝室でわたくしと一緒に寝んでいただいてもよろしくて?」
「もちろんいいけど、オディも別館に泊まるの?」
アイリーネが不思議そうに訊ねると、オディーナは当然とばかりに頷いた。
「ルーディカさんたちがいらしてからは、ずっと別館で寝泊まりしてるわよ」
オディーナが「万が一にも間違いがあったら困るもの」とクロナンを横目で見ると、赤毛の隠密は「信用ありませんねえ」と肩をすくめる。
「それに、本館でずっと女主人の顔をしているのは肩が凝るのよ。たまには気の置けない者同士で楽しい時間を過ごしたいわ」
「あ、あの、すみません……」
おずおずとルーディカが切り出した。
最初のコメントを投稿しよう!