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「私も、オディーナ様やアイリ様と同じお部屋を使わせていただいてよろしいのでしょうか……?」
アイリーネは優しく笑った。
「他人行儀なこと言わないで。小さいころはよく一緒に昼寝した仲じゃない」
オディーナも気安い調子で言う。
「そうよ、何も気になさらないで。身分のことをおっしゃってるのなら、商人の娘のわたくしだって結婚前は平民よ」
「あ……ありがとうございます」
ふわりと微笑んだルーディカを見て、オディーナは目を細めて「はー……愛らしい」と声を漏らした。
「笑顔ひとつで人をこんなに幸せにできるなんて、アイリ、あなたすごい幼なじみがいたものね」
「いいでしょ。ルーディカは愛らしいだけじゃなくて、優しくて、聡明で、努力家で、手先が器用で、しっかり者で……」
ルーディカが顔を真っ赤にして遮る。
「ア、アイリ様、もうお止めください!」
召使いに準備ができたことを告げられ、各々が席を立って寝室へと移動しようとしたとき、クロナンがアイリーネに声を掛けた。
「アイリーネ嬢、実は暗号表に大幅な変更がありまして。私が持っている表を書き写して、こちらに滞在している間にすべて頭に入れておいて欲しいのですが」
突然の依頼だったがアイリーネが了承すると、クロナンは顔を輝かせた。
「みだりに複製することは許されていませんので、一つの写しをフィンと共有し、順次暗記したあと破棄してください。……よろしければ、これから応接室に移動して、表を書き写されませんか?」
促されるままにアイリーネがクロナンと一緒に食堂を出ていこうとすると、背後からフィンが口を出した。
「リーネじゃなくて俺でもいいんだろ。俺が写す」
嫌そうな顔をしてクロナンが振り返る。
「おまえ、字汚いじゃんか」
「丁寧に書くから大丈夫だ」
フィンは、クロナンとアイリーネの間に割って入るように歩み寄り、アイリーネを自分の後ろに庇うようにして言った。
「リーネは早く部屋に行って寝め」
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