2 年下騎士は偉そうで

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 栗毛の馬はすぐに馴染んで、アイリーネを乗せて軽快な速歩(はやあし)で訓練場周りの木々に囲まれた小径(こみち)を進んでいった。 「おい、あんまり飛ばすな」  黒い馬に跨ったフィンが追いついてきて、怒ったような声で言う。 「馬に乗るのは久しぶりだろ。調子づくと落とされるぞ」  完全に勘を取り戻したつもりの乗馬にまで口出しされるのかと、アイリーネはうんざりした。 「静養先でキールトと何度か遠乗りしたから、もう感覚は戻ってる!」  そう言い放ち、さらに速度を上げて駈歩(かけあし)に切り替える。 「ちょっ……」  慌てて後から来るフィンを後目(しりめ)に風を切って馬を駆っていくと、くすぶっていた気分が吹き飛んでいく。頬を滑る冷たい空気が心地よくて、アイリーネは思わず笑みをこぼした。 「――ねっ? 大丈夫だったでしょ?」  フィンが追いつくのを大きな樫の木の下で待っていたアイリーネは、得意げに胸を張る。 「ほんと、ガキかよ……」  フィンは眉根を寄せて、呆れたように息を吐いた。  確かに少し大人げなかったが、それを認めるのも悔しくてアイリーネが何も言い返さないでいると、フィンは不機嫌そうな顔のまま馬の方向を切り替えた。  アイリーネも手綱を操り、ゆっくりした速度で小径を先に進んでいたフィンの横に馬をつけ、足並みを揃える。  しばらく黙っていたフィンが、独り言のように呟いた。 「――なんで婚約解消したんだ」  アイリーネは目を丸くする。 「『くっだらねー話』じゃなかった?」  騎士見習いになる前から結ばれていたキールトとの婚約が破談になったのは、アイリーネが静養休暇に入ってひと月が経ったころだった。二人が許婚だというのは隊でも周知のことだったので、その時点でキールトが皆に報告してくれたのだという。 「おまえたち相変わらず仲いいのに、おかしいだろ」
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